琴奏・雨は追憶のトレモロ ~龍田風鎮祭 直会の午後の雨~
昨夜、スターシード宇宙フェス・前夜祭に参加するにあたり、最適な環境として都内のビジネスホテルを予約して、無事に果たしました。
生活用品など何もない、装飾もない白い壁のシンプルな部屋、適度な明るさの照明の中、身支度や、カメラ位置の確認、予行練習その他、無駄なく整えることができ、
神社様やスタジオをお借りできない今、特に猛暑の中でのことですから、ホテルの個室でシャワーできて涼しくメイクやら準備ができて……ちょっと贅沢とも思ったけれど、ホテルを選んだのは大成功と思いました。
……が。
連日の猛暑晴天続きの日々だったのに、よりによって、まさかこの荷物抱えた移動日の両日、台風が近づいてけっこうな雨になってしまうとは。
そこそこの降りならともかく、楽器や着物を抱えて風まじりの大雨はキツイ。
駅までタクシーを頼むには近すぎるし、雨の中を歩いていくには遠い半端な距離。
幸い、上陸はしないし午後には回復する予定ではあるので、せめて小降りになるまでと、チェックアウト後のホテルのロビーに、ご厚意でスペースをお借りし、雨やみ待ちをさせていただきつつ、
窓の外の、雨と風を眺めながら、これを書いています。
手際よく立ち働くホテルの清掃の音と、パタパタと大粒の雨の音に包まれて、
私だけが非日常に次元移行したような、どこかアンニュイな昼日中の風情。
ひとりで雨を聴いていると、イルカさんの『雨の物語』や、小林麻美さんの『雨音はショパンの調べ』を思い出す……雨音は心をたたく追憶の調べです。
そういえば、雨の音の中で奏でたことがあったなと、過去のYouTube動画を思い出しました。
たしか三年前です。奈良県三郷町の龍田大社様、私の第二の産土というべき長く深いご縁を賜るお社でのこと。
久しぶりにこちらの主要祭祀である風鎮大祭に参列し、伝承・龍田山山頂(和歌や物語に名所として名のありながら“龍田山”という名の山はありません。これはまた別にお話ししたい)にある風神降臨地「御座峯」でのご神事も終わって、崇敬者さんのみで直会が行われて、それも三々五々解散となりつつある頃。
私もそろそろ失礼しようと立ちかけると、唐突に、雷と共に大雨が降りだしました。
しばらく動けない……
この時、物悲しい思いを抱えていたのですけれど、龍田風神様が「行くな」と雨で足止めしてくださったような心地がして、軒下でひとり雨を眺め、神様に心のうちを語りかけながら、ひっそりと弾いた時の音です。
私の琴奏は、曲ではなく、指任せの爪弾きです。
弦の響きに呼応する“何か”と、会話する声です。
琴のねは、水の祭祀と深い関係がある。
弦の響きは、水をいざない、また水を鎮める波動。
そこからは、人の言葉とは異なる、天の言霊の響きが読み取れます。
琴のおかげで、私はそれと呼応することができる。
「天の詔琴」という神宝が神話に出てきますけれど、私は琴とは神聖な響きを持つ神の声を再現するものと解釈しています。
雨と琴に、古い記憶も慰められます。