ささがねの ゆらら琴のね

~ いにしへの和歌招く響き ~

天河大弁財天社の思い出 〜捧げものとしての芸能者〜

天河大弁財天社のご神前にて。

 


天河大弁財天社を拝す - YouTube

3年前の動画です。

ちょうど3年前の今日の記録としての動画が出てきたので、改めてYou Tubeに記録しました。

まだご神前で琴歌奉るようになったばかりの時期です。

 

この翌年…令和元年の夏至の宵に、音・舞・歌のそれぞれを、3人が依頼を受け、

私にとっては仰ぎ見るようなかたがた、“音”の奈良裕之氏、“舞”の加藤おりは氏と共に、私が“歌”の担当として、ご神前能舞台にて、ご依頼者主催の神祭りをさせていただいたのでした。
この時の、御神気に包まれ周囲の山川の波動に心身を任せた記憶は、魂の奥底まで留まり続けております。

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動画は、ご依頼者から最初にご神事のお話をいただいた後、天河にご挨拶に伺った際に知人が記録してくれたもの。

他者に撮っていただいた、撮られていることに気づかずに奏でていた、私にとっては貴重な動画です。

 

ご神前の真向かい、動画で私が立っている拝所を挟んで、能舞台があります。f:id:shihina_takisato:20210920211650j:image

本番の際には、宵闇の仄明かりの能舞台に立ち、まさに神様と真向かう位置にてご奉納いたしましたが、天上の雲の上にて、周囲の山や川の氣がいっせいに押し寄せる中心に立つような、恍惚とした夢見心地でした。



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奥吉野のさらに奥深い隠れ里の聖地・天河神社は、いにしえに天女が五節舞を伝授した伝もあり、古来より芸能の神様として名高いですが、

観世流能楽を確立した世阿弥の早逝した長男が、こちらを尊崇し、名物の能面を残した伝もあることから、ことに神事としての能楽にゆかりがあります。

宮司様のお働きにより、現社殿が造築された頃には、宇宙と繋がり天啓を得る、クリエイターやアーティストの聖地としても知られ、特にニューエイジのかたがたにとっては憧れとなりました。

 

それゆえ、こちらの舞台に立つ機会を持てることを、なにか特待の権威のように喧伝するかたも多いのですが、実際はご祭事以外で、神社様公認の芸能がおこなわれることはほとんどありません。

お舞台は神社に使用料をお支払いして、その時のみお借りする取り決めになっており、おこなわれる活動は神社とは直接関係ないことになっています。

これはどこの寺社でおこなったとしても同じで、神社様から直接のご依頼をいただく場合以外は、その寺社の名のもとになされたものではなく、単にそこで自主的に奉ったということを明らかにしなければ、失礼であり、ご迷惑にもなります。


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私が立たせていただいたのも、ご依頼者個人の企画でした。

天河様のお舞台をお借りして独自に天河様に捧げる、神社そのものとは無関係の、けれども天河様でなされることが望まれたご奉納です。

 

祈願者が俳優(わざをぎ)や舞人・歌びとを個人で招き、神々に捧げるための神遊びをおこなう、古式の奉納芸能の形式に則って企画されたもの。

つまり私の立場は、お賽銭や奉献酒と同じ、捧げものです。

依頼者・参加者たちは、私たちの芸を、神々に捧げた撤饌として、垣間見、神々と共に楽しむスタイルになります。

 

光栄だったのは、ご依頼者がもともと天河神社宮司様とご縁が深く、予めこちらでおこないたい大事な主旨をお伝えしていたため、

さらに、ガイアシンフォニーでご縁が深かった“音”の奈良裕之氏と、五十鈴たたら舞をなさる“舞”の加藤おりは氏(五十鈴は天河神社の御神宝です)が参加なさることもあり、宮司様がお立ち会いくださったことでした。

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こんな素晴らしい場において、“歌”の私のみが無名で場違いみたいでしたけれど…

ご依頼者によれば、真の古代神事さながらに、斎場にて琴を弾き和歌をおろすことができる、名もなき無私の歌びとを探しており、たまたま人づてに私を知ったことが、企画のそもそもの始まりだったそうで、

むしろ無名で目立つ活動をしない私がよかったとのこと。

誰知らぬ私をたまたま知ったこと自体が、ご神事をおこなう必然と思われたようです。

 

私にしてみれば、目立つこともできず人脈もないのに、不思議にご縁があってご神前に導かれることこそが、ご神意と思えて、畏れ多く有難い限りです。

個人で努めてジタバタしたところで、とてもこのような僥倖に恵まれるとは思えません。

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夏至の宵の記録。左が奈良裕之氏、右が加藤おりは氏とペアの丸山太郎氏。最後にご挨拶に立った時の写真。

この舞台の記録は、ご依頼者がこの夜限りのご神事ゆえ参加者の記憶のみに…とこだわったこともあり、写真1枚しか残っておりません。

 

光栄なご縁と、感謝の思いにあふれた、生涯の宝の思い出です。